吸血鬼のドラキュラ伯爵の映画はたくさんありますが、こちらは黒いヴァンパイアー、つまりブラック・ドラキュラの映画です。
70年代の黒人ソウル文化に迎合したルーマニア伝説が誕生したのです。 1972年にWilliam Crain(ボブ・ケルジャン)が監督したシリーズもののホラー映画「吸血鬼ブラキュラの復活(Blacula)」は日本では劇場未公開ですが1980年代にはアメリカのテレビでも放映されて現在はカルト・クラシックとなっているそうです。ウィリアム・マーシャルの演技が賞賛されて1972年のSFファンタジー&ホラー映画のアカデミーといわれるSaturn AwardsでBest Horror Film"賞を受賞したそうです。 映画「Blacula」で主人公のブラキュラを演じるのは低音が魅力の黒人シェークスピア俳優のWilliam Marshall(ウィリアム・マーシャル)ですが、この映画にはラヴレター(Love Letters)が大ヒットした歌手のケティ・レスター(Ketty Lester)がブラキュラの餌食になるタクシー運転手のファニタ・ジョーンズ(Juanita Jones)の役で出演しているのです。死体安置所のストレッチャーからムックリと起き上がり廊下を駆け出して行きサムの首に喰らいつくシーンは語り草となっているそうです。 一発屋といわれた歌手のケティ・レスターは1960年代に放映されたテレビシリーズの「大草原の小さな家(Little House On The Prairie)にゲスト出演した他、1968年に「Up Tight!」で映画デビューしてから1997年の「ランナウェイ・カー(Runaway Car)」などの端役で活躍しました。 人種差別主義者のドラキュラ伯爵にヴァンパイアにされ「ブラキュラ」と名付けられた18世紀のマムワルデ(Mamuwalde)というアルバニア(?)の王子が棺に封印されたのだそうですが、1970年代にアンティーク業者がその棺を買い受けてロスアンジェルスに運んだことから恐怖が始まります。棺を開けたこの男たちがブラキュラの最初の犠牲者となります。 さて、ここからが映画「吸血鬼ブラキュラ」のイントロです。 1780年のルーマニア、トランシルヴァニア(Transylvania)にあるドラキュラの古城に雷鳴轟く嵐の晩、チャールズ・マコーレイ(Charles Macaulay)が演じるドラキュラ伯爵と、ウィリアム・マーシャルが演じる黒人のマムワルデ王子とヴォネッタ・マギー(Vonetta McGee)が演じる美人妻のLuva(ルーヴァ)が席につき血のようなワインを飲むシーンから始まる。 しかし奴隷貿易廃止のミッションでやってきたことがドラキュラ伯爵の怒りを買い、マムワルデが立ち去ろうとするとドラキュラ伯爵に捕らわれてしまいます。ドラキュラ伯爵は気絶したマムワルデの首筋に一撃、じゃなくて牙をむいてひと血吸い。 ※歴史上でも実際にアルバニアのある港が奴隷貿易の拠点でありイギリスなどで1870年代には奴隷貿易廃止運動が起こっていたそうです。 血を吸い尽くされバンパイアと化したマムワルデは地下の棺に入れられ、「これからは人間の血を求める獣になるのだ、そちの名はブラキュラ!」とドラキュラに呪いをかけらます。 You shall be... Blacula! 棺には錠がかけられ、マムワルデの棺の傍らに妻を残してドラキュラ伯爵は去る。ルーヴァの叫ぶ声、「ここから出してぇー!」 ここでやっと「吸血鬼ブラキュラ」の本番です。 音楽を担当したジーン・ペイジ(Gene Page)のファンキーなBGMが流れ、蝙蝠(ドラキュラ)と赤い女(血)のチェイスをアニメで表現したモノトーン調のオープニングです。 場面変わって現代のトランシルヴァニア、アンティークのインテリアの買い付けに来た二人の男、「ドラキュラだって?150年も前のことだ。あっはっは、映画で観たよ。」と笑い飛ばすアフロヘアの黒人と白人のちょっとゲイな二人の若者。 骨董品店主が「値引きしますよ。でも恐ろしいドラキュラは伝説なんかじゃないんですよ。」 15%値切って取引成立。3人はドラキュラ伯爵の古城にある秘密の部屋に入っていく。そこで見つけたゴージャスな棺も船で送ることに。 ロスアンジェルスに荷物が到着して男たちは例の棺を抉じ開けることに。 ところが別の荷物を開けていた白人男が怪我をしてしまう。当然 血が。。。 血? 血ならドラキュラ! 棺の蓋が開き、目覚めたマムワルデ、いやブラキュラが起き上がった! 顔にはみるみる髭が生えだし、牙をむいて血の臭いのする白人男めがけて突進、腕にがぶり!うまい!と陶酔するブラキュラ。次はアフロ男の首筋にガブリ!体中の血を吸い取られて死んでしまった二人の男。 ブラキュラがおもむろにマントを羽織ると、あの時のドラキュラ伯爵の呪いの声が聞える。 高笑いしながら自ら棺のベッドに入るブラキュラ。 霊安室では首に食いつかれて死んだアフロ男の棺の回りには葬儀屋と警察医ゴードン(Gordon Thomas)とその恋人で警察のラボに勤務するミシェルと姉妹のティナが来ている。 それを覗き見るブラキュラの目に懐かしい妻のルーヴァが見えた。実にミシェルの姉妹のティナはルーヴァにそっくりだったのだ。 死因を不審に思った検死官(医者)のゴードンが首の傷を調べる。「うむ、まるで血を全部吸い出されたみたいだ。」 ミシェルと別れて一人で歩いて行くティナの後を追うブラキュラ。「俺だ、ルーヴァ、待ってくれ!」 必死で逃げるティナ。ティナは地元だがブラキュラは道に不慣れなので蟹股で追いかけてもまかれてしまい、挙句には馬(タクシー)に撥ねられてしまう。 ブラキュラを撥ねた黒人タクシードライバーのジョーンズ(女)を演じるのがジャズ歌手のケティ・レスターなんですが、「なんで車の前に飛び出すのさ!」と罵倒した挙句に首をガブリと噛まれる。 一方、変な男に追われてIDカードやキーの入ったバッグを失くしたとミシェルに話すティナ。 ティナに逃げられてしまい一人棺に戻ってきたブルーなドラキュラはティナが落としていったピンクのバッグをティナの代わりと愛しそうに撫で、一緒にベッドイン。 こちらは警察、先ほどの警察医師ゴードンがブラキュラに襲われた女運転手の検死を行ったところジョーンズの首にも先の二人の男同様に傷があったのだ。 豹?なんてこたないし、まさか。。。 あれか? バカな、ここはファンキーなロスだぜ。 ミシェルの誕生パーティで3人でクラブに行くとソウル・グループのヒューズコーポレーション(The Hues Corporation)がファンキーなショーを繰り広げている。そこになんと!髭の無いブラキュラが現れる。ティナのバッグを届けに来たマムワルデと自己紹介する。同席してシャンペンなんか注文するブラキュラはゴードンには面白くないが女性たちは好意的。シャンペンだしね。ヒューズコーポレーションは後半にもクラブのシーンで登場します。 みんなの写真を撮ったグラマーなクラブの記念写真屋が家に戻って写した写真を現像していると変なことに気が付いた。が、時既に遅し、髭もじゃのブラキュラが迫って来たのだ。証拠の写真は握りつぶされてしまった。どうりでフラッシュを嫌がったはずだ。 このブラキュラが写真屋を襲うシーンがビデオカバーの画像になっているのです。 丁度来合わせた警官は写真屋を救ったつもりがバンパイアになった写真屋に襲われてしまうのです。 髭のないマムワルデがティナを訪ねて来て自分の過去を洗いざらい話して共にバンパイアとなってくれと頼むのですが、当然それは出来ないとティナは断るのです。が、2度も君を失ったと落胆するマムワルデを気の毒に思いティナは心を開いてブラキュラと一緒になることに。 感涙に咽ぶマムワルデ。 ハグハグ♪ そう、マムワルデも被害者なのだ。 一方、ゴードンに頼まれた葬儀屋が白人のインテリア業者の棺を開けてみると死体が消えていたのだ。 さて、夜中に墓を掘り起こすゴードンと見守るミシェル。底にある棺にたどり着いて開けるやいなや、バンパイアとなったインテリア業者がゴードンを襲う。勝手知ったるゴードン、クイをバンパイアの胸に打ち込む。もう一人のアフロ男もバンパイアだ。どこにいるのか。 そうだ、あの女運転手のジョーンズはどうだ? 警察の死体安置室の冷凍室から出されたストレッチャーに横たわるジョーンズの死体に変化が。。。溶けて。。。 突如起き上がるとゲジゲジ眉毛になったジョーンズが恐ろしい形相で廊下を脱兎のごとく駆け出してきて電話中のサムに飛び掛ったのです。まるで「Frankenstein's Daughter」のSandra Knightそっくりの形相。 ゴードンが到着した時にはサムの姿は見当たらずジョーンズの死体がある搬送台のシーツをめくった途端、ギャーッ! このシーンをもってケティ・レスターの出番は終わりです。素晴らしい歌手なのにこんなバンパイアの役なんて、と思うのですが他の映画も似たりよったりの役柄です。きっと楽しんで演じているのでしょう。 さてさて、例の3人でクラブにいるところに後からマムワルデが同席します。ティナは嬉しそうですがゴードンは歓迎してないようです。なんとマムワルデの注文は真っ赤な”ブラッディ・マリー(Bloody Mary)”! ※ウオッカとトマトジュースで作るカクテルのブラッディ・マリーはアルコール度の高い変わった味のドリンクです。 そこでゴードンはマムワルデに質問する。 「バンパイアの存在を信じるかね?、今その棺の在り処を探しているのさ」 マムワルデは言う「現代のバンパイアに棺なんて必要ない。」 ミシェルの誕生パーティの写真を撮ったクラブの写真屋が消えうせたことを知ったゴードンは暗室を捜査して例の不思議な写真を見つける。あの時マムワルデが写真のフラッシュを嫌がったことを思い出したゴードンは慌ててティナを探しに飛び出す。 一方、マムワルデはティナに言う、「今夜は私と一緒に来てくれ。」 危機一髪でゴードンが飛び込んだがマムワルデは闇に消えた。 本を読んで知識を得たゴードンはジョーンズを十字架で退治しましたが、「バンパイアは日が昇る前に棺に戻らねばならない」ことも学び、バンパイアを追ってとある倉庫に到着、そこは冒頭に二人の業者が輸入したアンティークのインテリアを搬送したあの部屋でした。牙をむくアフロ男を先頭に亡者のようなバンパイアたちがウジャウジャと現れる。まるで地獄絵のよう。 次々と火を点けたランプを投げつけてバンパイアたちは火だるまに、倉庫は火の海に。やっとの思い出逃れたゴードンたちの前に、出た! マムワルデ! お今晩は! マンとを広げると蝙蝠となっていづこへか飛び立った。 戻ったゴードンとミシェルはティナにマムワルデのことを話しあきらめるように説得する。 ブラキュラのマムワルデがいるビルは警察に完全に包囲されたが、蝙蝠の超音波(パルス)を使ってティナに連絡すると蝙蝠となって飛んで行きます。ティナは夢遊病者のように。。。 行き先は地下化学工場。そこに現れたのはマムワルデ。 ティナをつけて来た警察のサイレンと警官たちの足音を聞いてマムワルデはティナを連れて逃げる途中に警官に撃たれてしまう。 そう、バンパイアじゃないティナが。 そこで究極の手段、「許してくれ、永遠に私と一緒だ」とティナの首筋にマムワルデは愛の牙を突き刺す。 ゴードンと警官隊はやっと地下の棺を見つける。棺の蓋を開けるやいなやクイを振り下ろしたっ!ギャーッ! 悲鳴を上げたのはなんとティナだったのだ。そこに現れたマムワルデに十字架を向けようとしたゴードンに「その必要はない」 バンバイアにしたティナまでも失ってしまった悲しみで一杯のマムワルデは階段を一歩、一歩と登って行き、日が昇ったビルの外に出たのだった。後から追いかけたゴードンがマントの下に見たものは、髑髏と化したブラキュラだった。 ※ナイトクラブのシーンに登場したヒューズコーポレーション(The Hues Corporation)は”Freedom For The Stallion”や”Rock the Boat”のヒットで知られた女性一人に男性二人の黒人ソウル・トリオで、この映画「吸血鬼ブラキュラの復活」に出演してブレイクしたそうです。 映画ではThere He Is Again、What The World Knows、I'm Gonna Catch Youを歌っています。 ウィリアム・マーシャルは次作の1973年の「吸血鬼ブラキュラの復活(Scream Blacula Scream)」にも出演していますが、監督はボブ・ケルジャン(Bob Kelljan)に交代しました。こちらには1997年に「Jackie Brown(ジャッキー・ブラウン)」で主演したPam Grier(パム・グリア)が父親の死後ブーズー教の継承者争いに負けてブラキュラを復活させてしまう長男ウィリスの妹リサ役で出演しています。 ☆ケティ・レスターがブラキュラに血を吸われてバンパイヤとなる写真が見られるKetty Lester - cinemorgue.com 英語ですが映画「Blacula」のレビューは The Screen: 'Blacula':Yes, the Vampire Is Back in Los Angeles - New York Times このような黒人のドラキュラ伝説は1995年にエディ・マーフィ(Eddie Murphy)が主演した「ヴァンパイア・イン・ブルックリン(A Vampire in Brooklyn)」というホラー映画のウェス・クレイヴン(Wes Craven)監督の作品があります。 ちなみにこの記事は、以前私が参加していたmixiで作ったケティ・レスターのコミュニティで「まだあった!ケティ・レスターの出演映画」として2006年10月01日に投稿した記事を元にしています。 ☆Audio-Visual Trivia 内のケティ・レスター関連の記事は Ketty Lester ☆ブルーベルベット data-count="horizontal" data-via="koukinobaaba">Tweet
by koukinobaaba
| 2008-06-24 16:46
| 映画
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