イギリスの作家「アンソニー・バージェス(Anthony Burgess)」が書いたモダンエイジの犠牲者を描いたSF刺小説をアメリカの監督「スタンリー・キューブリック(Stanley Kubrick)」が1971年に映画化して話題となりました。ロンドンを舞台に暴力と欲望の発散などやりたい放題の不良少年たちが登場します。不思議なことにリーダー各のアレキサンダー通称アレックス少年はクラシック音楽の愛好家なのです。
そのリーダーのアレックスが捕まって懲役判決を受けたのですが、恐ろしいルドヴィコ療法(the Ludovico technique)に志願します。この拷問、じゃなくて”治療”を受けると悪い子が良い子になるのだそうです。一種の去勢ですが、そう簡単に良い子は出来上がりません。外科的治療のロボトミーも怖いですが、精神的治療のルドヴィコもそれはそれは恐ろしい実験なのです。 その実験の効果を上げるためか音楽が使用されますが、その曲が少年が好きなクラシックの”ベートーヴェンの第九”だったのでその曲を聴くと死にたくなってしまうのです。 かっての少年の被害者がこのことを知り復讐に利用しますが、最後には又このことが逆転するのです。 ![]() Theatrical poster by Bill Gold 時期は不明、イギリスのロンドンを舞台に下町の不良少年たちが繰り広げる暴力行為を描いたこの映画には映画の題名を含めてアレックスたちロンドンっ子の言語(コックニー)が使用されているのでセリフも字幕がないと意味不明です。 冒頭は右目下のつけ睫毛が長いグループのリーダーであるアレックスのナレーションで始まる異様なシーン、のっけから度肝を抜かれる。白いユニフォームのアレックスのドルーグ(一派)はビート、ジョージ、ディム。精神が高揚する麻薬入りミルクをミルク・バーで飲んで今夜も超暴力へ盛り上がろう!4人は夜の街に繰り出す。アレックスが常に持ち歩いているのは軍隊で使用された士官用ステッキなのだろうか。ナイフが出てくる仕込み杖となっているが。 夜の街、橋のたもとに安酒片手に歌う浮浪者。 醜態を晒す酔っ払いは大嫌いだとアレックス。金をくれっと言う老人を打ちのめす。まさに老人が嘆いていた無秩序の世界がここにあった。呼子を吹いて暴力に及ぶアレックス一派。たとえ仲間でもアレックスに逆らえばトルチョック制裁が待っている。生きたけりゃアレックスの言うとおりにしてろ。 廃墟のカジノで女を襲っていると別の一派と出っくわして警察が来るまで大乱闘。 その次には闇の田舎道を車で大暴走、恐れおののいた対向車は避けようとして自滅。さてお次は恒例のサプライズ訪問だ。アレックスたちが狙った作家夫婦の住む家で応対に出た女性に、「大事故を起こしたので助けて」とドアを開けさせる。お気に入りの曲、”Singing in the Rain(雨に歌えば)”にのせて年配の夫とその妻をを滅多打ち。 夫の目の前で妻の衣服をめった切り。犯行時のアレックスの付け鼻は何なのだろう。 ヘトヘトになってコロバにたどり着き精気を取り戻すためにナイトキャップの例のミルクを飲む。ドリンクはルーシーと呼ばれるマネキンの乳首から出てくる。 その日、バーの片隅にテレビ局関係の一行が陣取り、女が”歓喜の歌”をアカペラで歌いだす。 キタ、キターッ! ルドウィヒ・ベートーヴェンの第九! アレックスの大好物。 両親の住む宇宙的空間の家に戻ればつけ睫毛をはずすアレックス、ペットはベッド下の蛇(バジルちゃん)、一日の仕上げはベートーベンのカセットテープをかけて陶酔。音響設備は万全。 朝には工場勤めの青い髪の母親が「学校に遅れるわよ」と起こしに来るが、夜は働いている(?)アレックスだから早起きなんかできない。するとこの病んだ世の中でたった一人のアレックスの味方を自認するアレックス担当の更正委員のデルトイドが家庭訪問に来た。かなりの強硬派。捕まらないから悪いことをしていないってことにはならないと脅す。 レコード屋で少女二人をナンパ、ウィリアムテルの序曲に合わせて3Pのお仕事。(ここはモダンタイムス風早回し) 仲間に合うと新体制になったと言う。つまりこそ泥なんかじゃなくて男の仕事をすると。大きなヤマ。 いまやジョージが司令官となった。危機を感じたアレックスはどうするか分った。仲間を次々と川に落とし助け上げる瞬間にナイフで切りつけ2名を負傷させた。 これで一件落着。 誰がリーダーが分っただろう。 さてジョージが提案した大きなヤマは、今は臨時閉鎖中のヘルス・ファーム お宝の山。 「助けて下さい!救急車を呼びたいのです!」とアレックス。 「夜は見知らぬ人を家には入れられないから、近くのパブの電話をつかって。」と経営者の金持ち女。 その言葉に素直に従うアレックス、アレッ。 んなわきゃないだろ。ドアを開けようが開けまいがどっちみち同じこと。 昨夜の作家夫婦事件を知っていた女は警察に問い合わせている。数分でパトカーを差し向けるという返事で電話を置いたとたん、付け鼻のアレックスがドアからご来場。気丈にも銅像を手にアレックスに立ち向かう女。そこにパトカーのサイレンが。あわくって外に出たアレックスを待ち構えていたのは仲間。ミルクビンで顔を殴られてのた打ち回っているところを逮捕された。 もう感化院は卒業、本物の刑務所行き、殺人により14年の刑。 アレックスの囚人認識番号は655321号、地獄型人間動物園での日曜礼拝で神父の手伝いを受け持った模範囚のアレックスは聖書も戦闘と色欲の想像も逞しくして独自の解釈で読んだ。 そしてこの後は、療法を受ければすぐにでも出所できて犯罪に逆戻りしないというルドビコ式心理療法に志願したアレックスの聞くも涙の究極の拷問物語です。 まだ実験段階だから危険かもしれないという新療法は所長の反対でアレックスが収監されている刑務所では取り入れていないのだそうです。しかしひたすら善人になりたいアレックスは神父に被験者になれるように嘆願するのです。 そうこうするうちに、所長の査察があった日のこと、悪党を善人に強制する意向の新任内務大臣が同行して若くて大胆で残忍なアレックスは療法の実験台に選ばれた。やっと残忍のレッテルを貼られたアレックスは郊外にあるルドビコ医療センターに送られブロドスキー博士のもとで2週間の治療を受けることになりました。 どんな治療かって?ただ映画をビディーるのです。動かぬように拘束衣を着せられまばたたき防止装置をつけられた。(これは大変危険で俳優は実際に失明の危機に陥ったとか) 大音響で血飛沫が飛び散る暴力シーンを見せられたアレックスは最初のうちは喜んだものの次第に苦痛になる。レイプシーンも同様でしまいには吐き気を催す始末。(快方に向かう証拠) しかし映像から目をそらすこともできない。その後にやってくる恐怖と無力感に、つまり死んだも同然の状態となるそうだ。 アレックスは確実に快方に向かったため、実験は効果をその示し、翌日の実験は全快を目指して2回行うことに。 ぎぇっ、2回も! そう、夕刻には半死半生状態。 世界第二次大戦中のナチスの爆撃や収容所の悲惨な映像を含めて暴力や残虐シーンを観ているうちにアレックスはBGMが自分の大好きなベートーベンの”第九第四楽章”であることに気が付いた。アレックスは叫ぶ、「止めてくれ、罪悪(Sin)だ!」 つまり犯罪など意図して作曲したわけじゃないのにベートーベンの曲をこんな実験で使用しないでくれと嘆願したのだ。これじゃトラウマになっちまう! 五月の空のごとく爽やかな青年へと変貌を遂げたアレックスはそれを証明する実験舞台で暴力に屈し肉欲にも打ち勝ついや、吐き気を催す始末。つまり大成功!刑務所の過密状態を緩和することができるようになるのだ。 神父は選択肢をもてないだけじゃないかと疑問をなげかけたが、翌日アレックスは晴れて自由の身になった。こぞって新聞が書き立てる、殺人鬼のアレックス、釈放! しかしアレックスの家族は当惑気味。アレックスの私物は被害者への賠償金に当てると全て警察に没収されていたし、バジルちゃんはお亡くなりになったし、アレックスの部屋には息子同然の下宿人。 なにおっ、この野郎!と下宿人に手を上げようとしたアレックスは吐き気。 ここはボクの家だけどボクの部屋がない。どうすればいいのかと涙するアレックス。 家を出て川に向かうと浮浪者が「一文おくれ」と寄ってくる。ポケットから小銭を出してやるが、その浮浪者が気が付いた。この若者がかって自分を袋叩きにした人食い豚だってことを。 浮浪者仲間によってたかって小突かれているアレックスを警官が助け出した。やれやれ助かったと思ったのもつかの間、警官はかってのドルーギー(仲間)だったジョージとディム、ならず者を警官に取り立てる政策にのっかったらしい。 二人はアレックスに手錠をかけて本当に治ったかどうかと暴行の限りを尽くして半殺しの目に。 嵐のなか、無一文で家なき子のアレックスはホームを探す。 あった!HOME アレックスは覚えていなかったがそれはかって暴力をふるった作家のホームだったのだ。ただ奥さんの変わりに今度はマッチョマン。ずぶ濡れで気絶寸前のアレックスを家の中に運び込むマッチョマン。 そこでアレックスは哀れにもこのホームが何だったかを思い出した。があの当時は犯行にマスクをしていたから。きっと分らない。 それがアレックスの暴行により半身不随となった作家には分っちまった。 いや、新聞やテレビで観たのだった。親切に風呂に入れて貰えてご機嫌になったアレックスは鼻歌、お気に入りの歌、I'm singing in the rain...♪ それを聞いた作家は本当に思い出した。妻が手ひどく強姦されたあの時のことを。 その作家はアレックスを助けるという友人を呼んでいた。彼らの調査ではアレックスの拒絶反応は暴力やセックス以外に音楽にも及んでいることを確認する。アレックスは説明した。第九を聴くと死にたくなると、つまり自殺願望に陥ることを。話し終えたアレックスは突如スパゲッティの皿に顔を突っ込む。先ほど飲んだ60年もののシャトーに薬でも入れてあったのか。 気が付いたアレックスは苦痛と吐きでのた打ち回る。 第九が床下から聴こえていたのだ。ドアは開かない。階下ではテープレコーダーを前にした反権力を掲げる作家の仲間がいる。 アレックスは結論に達した。この邪悪な世界から逃れる唯一の方法。 ぶっ裂く! 一瞬の苦痛の後は永遠の眠りが待っている。 不幸にもぶっ裂けなかった。 アレックスの自殺願望は失敗策と非難されて非人道療法の責任を取らされた内務大臣。 政府は殺人鬼と医師会は表明。 ギブスで身動きできないアレックスを見舞った両親は自分たちも政府と同じだったと後悔した。 お前にはホームがあるから帰っておいでと。 ラストは精神科医のテスト、いやテストじゃないから答えはない。回復も間近なある日、訪問客があった。内務大臣は例の偏執狂的な作家は処置したから政府に協力をと。つまり政府を攻撃するメディアを回避するお役目。お礼にとアレックスへ音楽のお土産。 サプライズ! 報道陣の嵐。 アレックスと大臣のにこやかなツーショット。 完全に治ったー! エンド・クレジットにはほんまもん、ジーン・ケリーが歌う”I'm singing in the rain” A Clockwork Orange - YouTube 1980年にJack Nicholson(ジャック・ニコルソン)が主演したThe Shining(シャイニング)にも増して「時計じかけのオレンジ」は格別に異常な映画でした。 クラシック音楽はスタンリー・キューブリックが製作・監督した1968年のSF映画の「2001年宇宙の旅(2001: Space Odyssey)」でも使用されています。この映画ではニーチェが語った”超人”を意味するリヒャルト・ストラウス作曲の「ツァラトゥストラはかく語りき(Also sprach Zarathustra)」がテーマ曲となっています。クラシック以外で挿入歌として使用されたのはUKヘビメタバンドのヘッド・オン(Head-On)のブライアン・アダムス(Bryan Adams)が歌った”I'm Not The Man You Think I Am”と”It's All About Me”です。 ☆Beethoven's 9th(ベートーヴェンの第九)についてはChoral Symphony, no.9 in d Minorに書かれていますがこの曲は暮れにコンサートで歌われる第四楽章のコーラスです。 Beethoven's Symphony No. 9 - YouTube 「2001年宇宙の旅」の冒頭の「人類の夜明け」での人類の進化と暴力の始まりともいえる2度目のツァラトゥストラが始まる前、荒涼とした背景にバクと共に映し出された類人猿の熱演には感嘆します。俳優やダンサーが着ぐるみで演じたそうです。スター・ゲート(宇宙の彼方へ行くための通り道)、ワープする光、サイケデリックに流れる幻想的な映像はスタンリー・キューブリックが関わったそうですが、特殊撮影が大変効果的で素晴らしすぎて眩暈を起こしそうでした。 映画ではただ一人残った宇宙飛行士のボーマンが遂に木星に到達した結果、宇宙人(?)の観察目的で捕らわれの身となり時間を超越して最後はスター・チャイルドになるまでを描いていますが、胎児がはるか遠くの地球を想って見つめているように感じました。そういった意味では怖い映画です。 スタンリー・キューブリックといえば私は1961年のオリジナル「ロリータ(Lolita)」と1968年の「2001年宇宙の旅」、そして1999年の「アイズ ワイド シャット(Eyes Wide Shut)」などを観ましたがどちらもホラー的な怖さという映画ではありません。 目玉残酷物語といえば、剃刀で切る1928年にLuis Buñuel(ルイス・ブニュエル)が監督した「Un chien andalou(アンダルシアの犬)」も怖かったですが、「時計じかけのオレンジ」ほど恐ろしい映画は滅多にありません。「時計じかけのオレンジ」は1973年に制作されたのですが、原作者であるバージェスの本国イギリスではスタンリー・キューブリック監督が亡くなった1999年以降に上映されたのだそうです。そしてこの映画を元に犯罪の輪がつながっっていったそうです。はたして日本のホームレス襲撃事件もそうなんでしょうか。 data-count="horizontal" data-via="koukinobaaba">Tweet ※このブログはトラックバック承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
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